カイギ変革の具体的手法と事例

会議はなぜ長時間化するのか?トヨタに学ぶ長時間会議の防止策

会議の長時間化が組織の生産性を大きく阻害していると感じたことはありませんか?本記事では、日本企業が陥りがちな「長時間会議」の問題を浮き彫りにし、その原因を10項目に分けて探り、具体的な解決策を提示していきます。また、生産性向上のための会議ルールを徹底しているトヨタの事例を参考に、具体的な改革の手法をお伝えします。この記事を読むことで、会議の質を改善し、組織全体の生産性を向上させるための実践的な知識を手に入れることができます。

会議はなぜ長時間化するのか?トヨタに学ぶ長時間会議の防止策

日本企業に蔓延する無駄な長時間会議の実態

無駄な会議の長時間化とその現状

ある問題について社内関係者を集めた会議が開かれるとき、一般的に所要時間を1時間と設定するケースは多いと思います。

何時間以上の会議を「長時間」と考えるかは会社により様々ですが、参加者の立場からは、1時間を超えると「長時間の会議だな」「非効率だな」と感じるのではないでしょうか。

パーソル総合研究所と東京大学中原淳准教授による長時間労働に関する実態調査によれば、企業の部長クラスが会議に費やしている時間は年間平均で434.5時間、従業員規模1万人以上の大企業では630時間を超えていました。少なく見積もっても、労働時間の実に4分の1近くを会議に費やしている計算となります。

パーソル総合研究所・中原淳「長時間労働に関する実態調査」P2より

無駄な長時間会議が企業に与える影響と損失

長時間会議が企業に与える影響として最も直感的に理解できるのは、生産性の低下です。会議が長ければ長いほど、他の仕事が滞り、労働時間内に達成すべき仕事が達成できなくなります。

また、長時間の会議は企業のイノベーションを阻害する可能性もあります。時間を取られる会議が増えると、新しいアイデアを思いつく時間や、それを具体化するための時間が減少します。

さらに、長時間の会議は、精神的なストレスを増大させる原因ともなります。長時間にわたる議論は、従業員の疲労とストレスを増やし、結果としてモチベーションの低下や健康問題を引き起こす可能性があります。

先ほどの調査でも、ムダ会議に費やしている時間数から算出される年間総人件費は、大企業で1社あたり15億円を超えると試算されています。長時間会議が企業に与える影響は、決して無視できるものではありません。

パーソル総合研究所・中原淳「長時間労働に関する実態調査」P1より

長時間会議の原因とは

長時間会議の撲滅に向けての取り組みを始めるにあたり、なぜ長時間会議が起こるのか、その原因から分析し丁寧に解決していく必要があります。

原因となる要素は様々ありますが、会議の目的や目標の不明確さ、準備の不足、適切なファシリテーションの欠如、参加者の多さ、非効率的な議論、意思決定の遅れなどが考えられ、そのうちのどれが主な原因かは、企業文化によっても異なってきます。

とはいえ、どのような企業にも共通して当てはまるであろう原因を手掛かりにして、一つひとつ解決していけば、より効率的で生産的な会議を実現することができるはずです。次のセクションでは、考えられる原因と具体的な解決策について詳しく見ていきます。

会議を長時間化させる原因TOP10とその解決策

1. 目的や目標の不明確さ

目的や目標の不明確さには、会議がうまく進行しないといった課題があります。目標が明確でないため、議論があちこちに散らばり、長時間になることが主な原因と考えられます。

この課題に対する解決策としては、以下が挙げられます。

  • 会議の目的を明確にする:会議の開始前に具体的な目的を設定し、それを全員で共有します。目標を見失なわないように、ホワイトボードや画面上で常に見える場所に掲示しておくことも効果的です。
  • 会議冒頭でゴールを宣言する:会議の冒頭で時間をとり、参加者全員に1分程度で「会議終了時点に到達していたいゴール」を宣言してもらうことも効果的です。各人が目指すゴールがずれているケースもありますが、冒頭でそのずれを相互に認識できるだけでも意味があります。

2. 議題の粒度のばらつき

議論を行うには、議論に適した粒度に議題が細分化されている必要があります。この粒度が最適化されていないことで、議題の議論の方向がブレるなどの課題が発生します。

この課題に対する解決策としては、以下が挙げられます。

  • 議題の事前共有:事前に議題案を作成し、前広に参加者全員と共有し、議題の粒度が適切かを相互にレビューします。
  • 議題ごとの時間設定:会議全体の時間設定とは別に、議題ごとの時間も設定します。これにより、各議題の粒度が適切かを見直す契機になるでしょう。

3. 資料の準備不足

準備不足の代表的なものは、会議中に必要な資料や情報が足りないといった課題です。必要な情報が手元にないことで、参加者の議論の前提が整わず、会話が噛み合わない空中戦となる原因となります。

この課題に対する解決策としては、以下が挙げられます。

  • 資料の事前配布を徹底する:会議に必要な資料やデータを集め、それを事前に共有します。具体的な資料を用意し、それに基づいて議論を進めることを心掛ける。
  • 必要な情報源となる人を招集する:詳細な事実確認が必要となる等、議論に欠かせない人物がいればあらかじめ特定し、その人物を会議に招く。専門的な質問に答えられる人が参加しているかを確認することも重要です。

4. 適切なファシリテーションの欠如

適切なファシリテーションがなされないことで、議論が混乱し、無駄な時間が生じるといった課題があります。良いファシリテーターがいないため、会議がうまく進行しない会議は少なくありません。

この課題に対する解決策としては、以下が挙げられます。

  • ファシリテーターを設定する:会議を進行する役割を一人に任せ、その人が議論をうまく進めるようにする。ファシリテーターは意見をまとめたり、次の議論の進行を促したりします。
  • ファシリテーションスキルを磨く:ファシリテーターのスキルを高めるためのトレーニングを行う。また、他のメンバーも基本的なファシリテーションスキルを身につけることで、相乗効果が生まれます。

5. 非効率的な議論

非効率的な議論には、同じ話題について何度も繰り返される、あるいは議論がそれるといった課題があります。議論の進行がうまくいかないことが主な原因と考えられます。

この課題に対する解決策としては、以下が挙げられます。

  • 議題に沿った議論を心掛ける:設定したアジェンダに沿った議論を徹底する。話題がそれたときには、パーキングエリアなどの手法(関連記事:会議の効率化のための5つの基本ルール)を用いて、すぐに元の議題に戻すようにします。
  • 時間管理を徹底する:各議題について話す時間を設定し、その時間を超えないようにする。また、必要なら時間を延長することも考えられますが、それには全員の合意が必要とすべきでしょう。

6. 参加者の多さ

参加者の多さには、一人一人の意見を尊重しようとすると時間がかかりすぎるといった課題があります。また、多くの人がいると一部の人の意見が埋もれてしまい、効果的な意思決定が難しくなることが主な原因と考えられます。

この課題に対する解決策としては、以下が挙げられます。

  • 必要な人だけを参加させる:会議の目的に照らして、本当に必要な人だけを招集する。決定を下す人、情報を提供する人、その結果に影響を受ける人など、必要最低限の人数にすることが考えられます。
  • 小規模な会議体に分割する:全体会議の代わりに、部門ごとやプロジェクトチームごとなど、小規模な会議を増やす。それぞれの小規模な会議で決定したことを、全体会議で報告する形にすることも考えられます。

7. 意思決定の遅れ

会議が続けられても結論が出ないという課題があります。各々の意見が分かれ、一致する答えにたどり着くのが難しいことは少なくありませんが、ビジネスを進める以上、一定の時間内にその条件下で判明している情報に基づいて意思決定を行わなければなりません。

この課題に対する解決策としては、以下が挙げられます。

  • 意思決定のフレームワークを導入する:多様な意見がある場合、意思決定のフレームワークを導入し、一定のルールのもとで議論を進めることが考えられます。
  • 決定を先送りにする:逆説的ですが、必要な情報や参加者の認識が揃わない場合には、そこで時間を消費するよりも決定を先送りにした方が良い場合があります。しかし、その際は次回の会議までに参加者各人がどのようなアクションを取るのか明確にすることが重要です。

8. 技術的・設備的な問題

ここでいう技術的・設備的な問題とは、インターネット回線の接続がうまくいかない、資料の画面投影や共有がスムーズにできないなどといったテクノロジーに起因するトラブルです。

オンライン会議に限った話ではありません。オフライン会議であっても、プロジェクターとの接続がうまくいかず資料投影ができない、マイク等の音声設備に不具合が発生する、狭い会議室しかなく座席数が足りない、などのトラブルは少なくありません。

この課題に対する解決策としては、以下が挙げられます。

  • トラブルシューティング専任担当者を置く:責任者を決め、会議前にリモート接続の確認や、資料共有、プロジェクターやマイク設備のテストを行っておきます。トラブルシューティングを担当するIT担当者を任命することも考えられます。
  • バックアッププランの準備:万が一のために、テクノロジーや設備上のトラブルが発生した場合のバックアッププラン(例えば、スクリーンが使えなかった時に配布できる資料)を準備しておくことも考えられます。

9. 言語や文化の障壁

言語や文化の障壁により、異なるバックグラウンドを持つ参加者間でのコミュニケーションの困難になるケースがあります。言葉の理解が浅かったり、文化的な違いから生じる解釈の相違です。

この課題に対する解決策としては、以下が挙げられます。

  • 通訳や翻訳を活用する:会議中に通訳を利用したり、事前に資料を翻訳しておくことで、言語の理解を深めることができます。これにより、会議の効率を向上させることが考えられます。
  • 文化の違いを尊重する:会議の進行や議論の方法を、参加者の文化や習慣に合わせることも大切です。異なる文化の参加者から見た視点や考え方を尊重します。

10. 「会議は1時間」という慣習

本来、会議の目的や解決すべき課題の大小によって、会議に必要な所要時間は変わってくるはずです。しかし、これを真剣に検討せず、なんとなく1時間で会議時間を設定してしまっているケースは少なくありません。

この課題に対する解決策としては、以下が挙げられます。

  • 会議標準時間を45分とする:社内ルールとして、会議の標準時間を1時間ではなく45分とすることを推奨します。Googleカレンダー等のITツールの中には、1時間よりも短い時間をデフォルトに設定する機能を有するものもあります。
  • 間隔を設ける:連続した会議を予定する場合、会議間に十分な休憩時間やバッファ時間を設けることが重要です。これにより、一つの会議が長引いたとしても、後続の会議に影響を及ぼさないようにできます。

長時間会議を防ぐための具体策—トヨタに学ぶ会議改善策の浸透法

解決策の選択的導入と評価

冒頭でも述べたように、長時間会議は企業の生産性に重大な影響を与えます。これを解決するための具体的な策を選択的に導入し、その効果を評価することが重要です。

上記で紹介した具体的な解決策を導入する際には、その適用範囲や導入のタイミングを考慮することが重要です。全ての会議に全ての解決策を導入するのではなく、状況に応じて適切な解決策を選択し、段階的に導入していくことが望ましいです。

また、導入した解決策の効果を定期的に評価し、必要に応じて修正や改善を行うことで、長時間会議の解消に向けた取り組みを進めていくことが可能です。

トヨタの成功事例から学ぶ「会議は30分」ルールの徹底方法

日本の自動車メーカー、トヨタの会議ルールはその短時間化による成功事例として広く知られています。特に「会議は30分」というルールは、トヨタの系列企業だけでなく、多くの企業において参考にされています(参考書籍:山本大平『トヨタの会議は30分 ~GAFAMやBATHにも負けない最速・骨太のビジネスコミュニケーション術』)。

会議の持ち時間を短くすることで、参加者は議題を絞り込み、効率的な議論を進める必要があります。また、持ち時間を超過する必要がある場合には、次の会議のスケジュールを設定することで、会議の長時間化を防ぎます。

さらに、会議のスケジュールは連続して設定せず、間に最低30分の休憩時間を設けることで、必要な準備時間や延長時間を確保します。

トヨタの例を見ると、会議のルールをシンプルかつ明確にし、それを徹底することが、長時間会議を防ぐための有効な手段であることがわかります。会議のルールを作る際には、自社の事情に合わせて最適なルールを設定することが重要です。

山本大平『トヨタの会議は30分 ~GAFAMやBATHにも負けない最速・骨太のビジネスコミュニケーション術』P27より

会議を起点とした企業変革

会議の運営を改善することは、単に会議時間の短縮だけでなく、企業全体の生産性向上につながります。短時間化された会議では、議論が効率的に進行し、結果として意思決定も迅速に行われます。これにより、企業全体のスピード感が生まれ、競争力が向上することでしょう。

さらに、短い時間内で議論を進めるためには、明確で効率的なコミュニケーションが求められます。効率的な会議の運営は、社員のコミュニケーションスキル向上にも寄与します。

また、社員の働き方改革にもつながります。会議時間が短くなれば、それだけ個人個人の本来業務に使える時間が増えます。これにより、社員はより重要な業務に集中でき、仕事のクオリティと効率が向上するでしょう。従業員全員に関わるのが会議だからこそ、その実施方法を見直すことが、企業の変革に直接つながるはずです。

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