無駄な会議が労働生産性向上の足枷に?世界で戦う日本企業が生き残る道とは
日本の労働生産性の低迷は、世界で戦う日本企業が直面する大きな問題です。しかし、その背後にあるのが無駄な”会議”という意外な事実。本当に生産性を向上させるためには、会議改革が必要不可欠であり、それは組織全体の改革に直結します。この記事では、会議の効率を上げ、組織の生産性を向上させる具体的な方法を紹介します。
目次
低迷が続く日本の労働生産性の現状
労働生産性とは?
労働生産性とは、労働者一人当たりで生み出す成果、あるいは労働者が1時間で生み出す成果を指標化したものです。労働投入量(input)に対し、付加価値額(output)がどの程度生み出されたかの比率で示されます。
日本では、公益財団法人日本生産性本部が毎年この労働生産性に関する国際比較を行い、レポートを公表しています。この指標は、労働者がどれだけ効率的に成果を生み出したかを定量的に数値化したものであり、
- 労働者の能力向上
- 効率改善に向けた努力
- 経営効率の改善
などによって向上する、と日本生産性本部は説明しています(参考資料:労働生産性の国際比較2022)。
世界の下位30%にまで低下し続けている日本の時間当たり労働生産性
では、近年の日本の労働生産性は、どのような状況になっているのでしょうか?
2021年、日本の時間当たり労働生産性は、2020年のコロナ禍最悪期から脱し経済成長率が上向いたことで、実質ベースで1.5%上昇し、具体的な数字では49.9ドル(5,006円)となりました。
しかしながら、他国と比較すると、OECD加盟38カ国中27位という結果となっています。これは米国の約60%に留まります。1970年から最も低い順位に落ち込んでいるだけでなく、2016年以降急激に下降している点にも注目する必要があります。
一人当たり労働生産性も主要国より圧倒的に低い
加えて、一人当たり労働生産性で見ても、81,510ドル(818万円)でOECD加盟38カ国中29位となっています。これは、世界の主要国の中でも生産性が低いと言われる英国・スペインよりもさらに2割近く低いという結果です。
単なる景気悪化や人口減少といった要因だけでは言い逃れできない、日本の労働環境に特有の原因があるように思われます。
日本企業の労働生産性向上の足枷は無駄な「会議」
会議が「生産性が低いと感じる業務」第1位に
では、労働生産性を下げている、日本の労働環境に特有の原因とは、どのようなものが考えられるでしょうか。
ある調査によると、ビジネスマンの約7割が仕事中に生産性が低いと感じる経験があると回答し、ビジネスマンが生産性が低いと感じる業務のトップは「会議」(40.1%)であることが分かっています(参考記事:ビジネスマンの約7割が業務における生産性の低さを実感!最も生産性向上を妨げていると感じる業務は「会議」)。
次いで「資料作成」(36.5%)、「その他」(35.4%)、「連絡のやり取り」(35.1%)が続いていますが、会議の多さや非効率さが日本の労働環境を悪化させている、とするこのアンケート結果には、共感を覚える日本のビジネスパーソンが多いのではないでしょうか。
生産性向上に向けて具体的に取り組んでいることは?
また、このアンケートでは、生産性向上に向けて(労働者として)行っている具体的な取り組みについても質問しています。その回答をみてみると、
- コミュニケーション改善(48.7%)
- 効率化のためのシステム・ツールの導入(39.7%)
が多数回答として挙げられています。
確かに、ドキュメント作成、プロジェクト管理、ワークフロー改善や文書を一元管理できるクラウドツールの導入は、生産性向上に寄与するものです。しかし、ITツールを入れただけでは、コミュニケーションの課題を解決するには至らないというのも真理です。
なぜ、ITツールを入れただけでは、コミュニケーションの課題が解決できないのでしょうか?
会議改革は組織改革
それは、会議に代表されるコミュニケーションの課題が、ビジネスパーソン一人ひとりの意識や行動変革だけでは解決できない「組織課題」であることが影響しています。
組織課題と言われても抽象度が高すぎてわからないという方のために、簡単な例を挙げて説明してみましょう。
ある会社が組織のコミュニケーション改善を試みるケースで考えてみます。例えば、情報共有のための週一回の定例会議を廃止して、毎日いつでも会話できるチャットツール上でこれを置き換えよう、といったものが考えられます。ここで、その会社の50%の従業員がその重要性に共感し、実際に意識と行動を変革したとして、残りの50%の従業員がそれに応じようとしなければ、どうなるでしょうか?
組織において、コミュニケーションは二者以上でかつ双方向で行うものです。相手の中に一人でも非協力的な人・行動を変えない人が混ざれば、せっかくのもう一方の努力は相殺され無に帰します。多くの企業が、このことによってコミュニケーション改善プロジェクトに挫折していきます。
会議改革とはつまるところ組織改革であり、一朝一夕に解決できるものではないということです。
組織を変革し会議の生産性を向上させるための具体的な方法
会議に非協力的で発言しない従業員を救うことがポイント
前述のとおり、コミュニケーションは双方向性が実現して初めて効果が発揮されるものです。したがって、会議に非協力的で、あまり発言しない従業員を救うことこそが、変革に繋がっていきます。
そのために、具体的にどのようなアクションが必要かを考えてみましょう。
安心感のある雰囲気をつくる
会議変革の最初のステップは、全ての従業員が自由に意見を出せる安心感のある雰囲気をつくることです。会議で発言を控える人々は、自分の意見が批判されることを恐れている場合が多いからです。
批判を恐れる気持ちを和らげるために、会議の初めに「意見の多様性は重要で、全ての意見が評価される」というメッセージを発することが有効となります。
また、議論が白熱すると、意見を口にするのが難しくなる場合もあります。このような時は、会議の進行役が積極的に話す機会を作ることが大切です。具体的には、個々の意見を求める形式の質問を行い、非協力的な従業員にも発言の機会を提供します(関連記事:会議を活性化させるファシリテーションのコツ)。
自信を育てる
次に、従業員が自分の意見を自信を持って表現できるようにすることです。発言を控える従業員が自己表現に不安を抱いている場合、自信を育てるためのサポートが必要です。
そのためには、準備の時間を与えることが大切です。事前に会議のアジェンダを共有し、どのような議論が予想されるか、どのような意見が求められるかを明確にします。これにより、会議に参加する従業員は自分の意見を準備し、それを表現する自信を得ることができます。
また、発言のクオリティを向上させるためには、定期的なフィードバックが重要です。発言の中の良いポイントを強調しながら具体的なアドバイスを行うことで、そうした従業員の自己効力感を向上させることができます。
会議の構造を見直す
最後に、会議の構造自体を見直すことも有効です。特に、構造的な問題で発言の機会が平等に与えられない場合、それが従業員の非協力的な態度を生む一因となります。
これを解消するには、会議の参加資格と参加人数を見直すことが有効です。どの会議にも高い役職者ばかりを集めたり、多くの人数に参加させてしまうようだと、従業員一人ひとりの発言機会が減り、発言しづらくなります。
会議における決定権限を積極的に委譲し、参加人数を適切に減らすことで、従業員は効力感を得て、より有効な議論を行うことができます。
まとめ—日本の労働生産性改善の第一歩は会議改革から
日本の労働生産性問題
OECDのランキングでは、時間当たり生産性で27位、一人当たり生産性で29位と、他の先進国に比べて日本の生産性は低い状態です。
そして生産性が低い原因の一つとして挙げられているのが、会議による無駄な時間消費です。特に、ビジネスマンの約7割が生産性が低いと感じる業務の第1位には、「会議」が挙げられています。
会議改革の必要性
会議に代表されるコミュニケーションの課題は、企業の組織課題であり、全体で取り組むべきものです。
具体的な取り組みとしては、ITを活用した新たなコミュニケーションツールの導入なども一案ですが、それらの導入を行ったとしても、組織全体がその重要性を理解し、実際に行動に移すことが必要です。会議改革は組織改革そのものであり、簡単には解決できない課題です。
会議の生産性を向上させる具体的な方法
組織課題解決の第一歩として、会議の生産性向上を目指すことは有効です。
そのための具体的方策としては、
- 従業員が安心して発言できる環境を作ること
- 発言を控える従業員が自己表現に自信を持てるよう支援すること
- 会議の構造自体を見直すこと
が推奨されます。