オンライン会議は「オフィス回帰」派の敵か?ハイブリッドワーク時代の会議スタイル選択法
「オフィス回帰」か「オンライン至上主義」か?ハイブリッドワーク時代に突入した今、この二つの極端な視点を越え、オンラインとオフラインのバランスを見つけることが求められています。この記事では、各会議スタイルのメリット、デメリット、そして最適なバランスの取り方を詳細に解説します。未来の働き方を作る経営幹部層の方に必須の視点です。
目次
1. オフィス回帰とハイブリッドワーク
1.1 コロナ禍収束とオフィス回帰の潮流
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、多くの企業が従業員にリモートワークを推奨しました。その結果、従来の「オフィスで働く」という概念が大きく揺らぎ、多くの職種において自宅やカフェなど場所にとらわれずに働くことが可能になりました。こうした状況は、従業員の働き方を一変させるだけでなく、企業の業務遂行にも新たな可能性を示しました。
しかし、コロナ禍の収束に伴い、特に日本においてはふたたびオフィスへの「回帰」が求められるようになっています。一方で、コロナ禍を通じて得たリモートワークのノウハウや技術進化の恩恵も生かした、新しい働き方を模索している企業もあります。それが、ハイブリッドワークという働き方です。
1.2 ハイブリッドワークとは
ハイブリッドワークとは、文字通り「混合の仕事」という意味で、オフィスでの勤務とリモートワークをバランスよく組み合わせる働き方を指します。
これにより、リモートワークの利点である働く場所の自由度と時間の柔軟性、オフィスワークの利点である直接的なコミュニケーションと情報共有の迅速さを、最大限に活かすことができます。しかし、ハイブリッドワークは新しい働き方であり、企業経営者や従業員にとっては慣れない部分も多いものです。
その中でも特に論点となりやすいのが、多人数で集まる「会議」の運営方法です。従来のオフライン会議とオンライン会議、それぞれの特性を理解し、適切な形式を選択することが求められます。
1.3 ハイブリッドワークにおけるオフラインとオンラインの使い分け
ハイブリッドワークをうまく機能させるためには、仕事の性質や目的によってオフラインとオンラインの使い分けが必要になります。
例えば、プロジェクトの立ち上げや重要な意思決定、創造的なブレインストーミングなどは、対面でのコミュニケーションが有効です。直接顔を見合わせることで、細かい表情や雰囲気を読み取り、感情を共有しながら議論を深めることが可能です。
一方で、定例の報告会議や確認作業、シンプルな情報共有などは、オンラインで行うことで時間や移動コストを削減できます。また、オンラインであれば記録として残しやすいという利点もあります。
管理職の立場からすれば、出社する自分から常に目を行き届かせることができるオフラインに、配下メンバーの働き方を一本化させたくなる誘惑に駆られがちです。しかし、各タスクに適した働き方を選択し組み合わせたハイブリッドワークを定着させることで、働き方の効率と生産性を高める可能性を秘めています。
2.オフライン会議とオンライン会議の特性比較
2.1 オフライン会議のメリットとデメリット
オフライン会議、つまり物理的な場所で顔を合わせて行う会議には、多くのメリットが存在します。
その最大の特徴とも言えるのが、直接顔を見てコミュニケーションを取ることができる点です。これにより、ボディランゲージや微細な表情変化、声の調子などを読み取り、会話の中で非言語的な情報を捉えることが可能になります。このような情報は、人間の感情や意図を理解する上で非常に重要です。
しかしながら、オフライン会議にはいくつかのデメリットも存在します。
まず一つ目は、参加者全員が一箇所に集まる必要があり、そのための移動時間や準備時間が必要となる点です。大都市の通勤ラッシュを考えれば、これは無視できない大きな時間コストです。二つ目は、場所の制約です。会議室の空き状況や大人数の参加、遠隔地からの参加など、物理的な制約からくる課題が存在します。
2.2 オンライン会議のメリットとデメリット
オンライン会議は近年急速に普及し、その利便性を実感する企業や個人が増えています。
その最大のメリットは、場所や時間に縛られずに会議を開催できることです。これにより、移動時間を省き、参加者の遠隔地からでも気軽に参加することが可能となりました。また、必ずデジタルツールを媒介することになるため、会議の録画やリアルタイムでの文字起こしなど、情報の共有・一元化・記録が行いやすいのも大きなポイントです。
しかし、オンライン会議にも課題があります。
第一に、技術的なトラブルやネットワーク環境の差異など、オンライン特有の問題が存在します。また、対面会議と比べてコミュニケーションが難しいと感じる人もいます。表情や声の細かな変化を読み取ることが難しく、誤解を招きやすいという課題もあります。
2.3 それぞれの会議形式の課題と解決策
オフライン会議の課題は時間と場所の制約です。これは、会議の目的と参加者を明確にすることで、必要な会議のみをオフラインで行うという選択が有効です。
これに対し、オンライン会議の課題は接続に関する技術的な問題やコミュニケーションの難しさです。これは、技術の理解を深める教育やオンライン上でのコミュニケーションのスキルアップが求められます。
たとえば、カメラの位置、照明、背景ノイズを発生させない配慮、音声品質へのこだわりなど、オンラインでのプレゼンテーションスキルを身につけることが求められます。また、感情や意図を明示的に述べるトレーニングも重要です。
2.4 オフライン会議 vs オンライン会議 メリット・デメリット比較表
ここまでのまとめとして、オフライン会議とオンライン会議のそれぞれのメリットとデメリットを表形式で整理しました。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
オフライン会議 | ・直接顔を見てコミュニケーションが可能 ・ボディランゲージや声の調子など非言語的な情報を捉えることが可能 | ・参加者全員が一箇所に集まる必要があり、そのための移動時間や準備時間が必要 ・会議室の空き状況や大人数の参加、遠隔地からの参加など、物理的な制約からくる課題が多数存在 |
オンライン会議 | ・場所や時間に縛られずに気軽に会議を開催できる ・会議の録画やリアルタイムでの文字起こしなど、情報の共有・一元化・記録が行いやすい | ・技術的なトラブルやネットワーク環境の差異に対処する必要性 ・表情や声の細かな変化を読み取ることが難しい |
オフライン会議では話者に関する情報量は多く得られますが、どうしても物理的な制約に抗えません。一方、オンライン会議は場所や時間に縛られずに会議ができる反面、技術的な問題が課題となっています。
3.会議形式の適切な使い分けとオフライン会議の課題
3.1「 オフライン会議の方がコミュニケーションしやすい」は本当か?
日本に根強い「オフィス回帰」派にとっては、オンライン会議の普及は、従業員のオフィス回帰を妨げるものと思われているフシがあります。しかし、そのような一面的なものの見方は、企業の発展と生産性向上を阻害します。
オフライン会議における最大の特徴として、参加者が直接顔を合わせることで、感情や意図を細かく読み取ることが可能であるという点が挙げられます。そのため、しばしば「オフライン会議の方がコミュニケーションがしやすい」とされますが、これは必ずしも全てのケースに当てはまるわけではありません。
事実として、コミュニケーションは言葉だけでなく、ボディランゲージや表情、声のトーンなど非言語的な情報が大きな役割を果たします。オフラインで行われる会議では、これらの情報を直接、かつ瞬時に受け取ることができます。しかし、それが必ずしも効率的なコミュニケーションにつながるわけではありません。
会議の目的や参加者の関係性、議題の性質などによっては、オンライン会議の方が適している場合も存在します。例えば、決定事項が明確であったり、参加者間で共有すべき情報が具体的に定まっている場合、オンライン会議で効率的に進行することが可能です。
また、参加者が地理的に分散している場合や、短時間で多数の人との調整が必要な場合も、オンライン会議の方が有利でしょう。重要なのは、形式に縛られず、目的や状況に合った選択をすることです。
3.2 オフライン会議における非効率性とその原因
オフライン会議が非効率になる一つの大きな原因は、物理的制約によって生まれる複数参加者の時間の浪費です。
まず、準備や移動については、オフライン会議が行われる場所への移動時間や、会議場所の準備、必要な資料の印刷や配布など、開始前後の準備や片付けに大量の時間が必要となります。これらの作業は参加者の本来の業務時間を奪うだけでなく、会議の本来の目的に直接貢献しないため、無駄な時間と言えます。
また、オフライン会議では本来の目的とは関係ないはずの余計な議論も生まれがちです。オフィスにメンバーが集まりそこに会議室があると、準備もそこそこに目的すらはっきりさせないまま会議を開催し、「仕事をした気」になってしまう傾向にあります。
さらに、情報活用もおざなりにされる傾向にあります。会議の成果物であるはずの議事録すら残されていないオフライン会議が多数横行しているのが実態ではないでしょうか。
3.3 オフライン会議の課題はあえてオンライン会議を選択することで解決可能
オフライン会議に固有の課題に対して、オンライン会議は多くの解決策を提供します。
まず、オンライン会議では、場所や時間にとらわれずに会議が開催できます。これにより、移動時間の削減や多地点からの参加が可能となり、参加者の時間効率を大幅に向上させることができます。
さらに、オンライン会議ツールの進化により、議事録の自動生成や共有、データの即時分析といった機能も提供されています。オフライン会議ツールに実装されたAI音声認識で自動的に生成されるトランスクリプトを活用し、ChatGPTを使って議事録を簡単にまとめることも可能です(関連記事:ChatGPTを活用した議事録作成の効率化と注意点)
オフラインで開催できる会議であっても、あえてオンライン会議とすることで、これらのITツールの活用により、会議の準備や進行、フォローアップが大幅に効率化され、全体の生産性を向上させることが可能です。
4.オンライン会議のメリットを最大化するためのヒント
4.1 最新のオンライン会議テクノロジーとその活用方法
オンライン会議の効率と効果を最大限に引き出すためには、最新のテクノロジーを適切に活用することが重要です。現在、各種の会議プラットフォームが提供されており、その機能性は日々進化を続けています。中でも「Zoom」や「Microsoft Teams」は、その豊富な機能と使いやすさから広く利用されています。
これらのプラットフォームは、単に音声や映像を共有するだけでなく
- 効果的なプレゼンテーションのための画面共有
- トランスクリプトと呼ばれるリアルタイムの文字起こし
- 感情を表現するエモティコン
- 投票機能
など、多岐に渡る機能を提供しています。これらを活用することで、会議の進行を円滑にし、参加者全員が情報を同じ基準で理解し、効果的に議論を進めることが可能になります。
また、AIを用いた会議ツールの進化は、効果的な会議運営を実現するための新たな可能性を引き出しています。最新のツールでは、議事録の作成だけでなく、会議全体の要約、決定事項、ToDoリストの自動抽出にも対応しており、これにより、情報整理と業務効率化が可能となります。
例えば、「AI GIJIROKU」は、複数の会議内容を横断的に要約するパーソナルエージェントを搭載し、情報把握と進行管理を助けています。「MiiTel Meetings」は、ChatGPTを用いて議事録を自動作成する新機能をリリースしました。この機能は、オンライン会議の議題、現状課題、提案内容、決定事項、ネクストアクションをChatGPTにより整理して議事録を自動で作成し、保存します。
AIツールの進化により、視覚的な表現から重要なポイントの抽出まで、会議運営はより効果的になり、時間とリソースの節約につながります。これらのツールの活用は、会議の効率と生産性を向上させ、組織全体の意思決定プロセスを強化する手段となり得ます。
4.2 オンライン会議における管理職のマネジメント術
オンライン会議は、対面のオフライン会議とは異なる独自の挑戦を伴います。そのため、管理職には新たなマネジメント術が求められます。具体的には、以下のようなオンライン会議のマネジメント術が考えられます。
- 詳細なアジェンダの準備:会議で何を達成したいのか、どんな結果を期待しているのか、各タスクを誰に委任するのかなどを考えます。そして、通話を始める前に、インターネット、マイク、カメラの確認を行い、テクニカルなトラブルが発生した場合のバックアップとして携帯電話でログインすることも可能です。
- プロトコルの確立と徹底:会議を開始するときには、全員に挨拶をし、アイデアを共有するための明確なプロトコルを設定します。たとえば、「手を挙げる」絵文字を使うように促したり、チャット機能を活用したり、マイクを同僚にパスしたりする方法があります。
- 行動につながる指示:話すときには、自分が話すポイントが行動に移せるものであることを確認し、自分から何を期待しているのかを全員に理解してもらいます。会議の最後には、次のステップの簡潔なまとめと、会議で議論した成果物や結果をどのように追跡するかの計画を共有します。会議後には、通話中に作成したメモや次のステップの計画を共有します。
- 振り返り:自分がどのように会議をリードしたか、何を改善できるかを反省する時間とすることも重要です。メンバーから匿名でアンケートを集めると、自分では気づけなかった欠点やクセを発見できます。
4.3 企業におけるオンライン会議文化の構築と維持
オンライン会議を成功させるには、その機能性や便利さを理解し、組織全体でその価値を共有することが求められます。オンライン会議の運用を企業文化として定着させるためには、各社員のスキルアップや適切なツールの導入が必要です。
しかし、それだけでは不十分で、経営層からの理解と支援が不可欠です。オンライン会議は単なる通信手段ではなく、新しい働き方の一環と捉えるべきです。経営層が積極的にオンライン会議を活用し、その価値を認識し、社員に対する教育やトレーニングの重要性を理解することで、持続的な改善と教育が可能となります。これにより、オンライン会議は単なるツールではなく、組織全体の生産性を向上させる重要な要素となるでしょう。
5.ハイブリッドワーク時代の会議運営成功の秘訣
5.1 ハイブリッドワークにおける会議運営のポイント
ハイブリッドワークの本質は、オンラインとオフラインの会議形式を適切に組み合わせることにより、より柔軟性と効率性を追求することです。オフラインのコミュニケーション礼賛や安易なオフィス回帰論に陥ることなく、新たな働き方の可能性を広げることが重要です。
それぞれの形式が持つメリットを理解し、それに基づいて形式を選択することが求められます。オンライン会議は、時間と場所の制約を超え、様々な場所からの参加や時間の節約を可能にします。一方、オフライン会議は、より直接的なコミュニケーションや非言語的な情報交換を可能にします。
どの形式を選択するにせよ、明確なアジェンダ設定と適切な進行管理は不可欠です。これにより、会議は目的を達成し、参加者全員が有意義な時間を過ごすことが可能になります。
5.2 企業の継続的成長に必要なハイブリッドワーク
ハイブリッドワークは、オンラインとオフラインの組み合わせによる働き方ですが、この中でコミュニケーションが希薄になる可能性があります。しかし、これはハイブリッドワーク自体の問題ではなく、それをどのように運用するかによるものです。
オフラインの集まりは、人間関係の深化や信頼関係の構築に寄与するのは事実です。だからと言って、経営者が「私が毎日出社してるんだから、君たちも毎日出社して顔を見せろ」となったのでは、そうした経営者とたまたま同じ思想・ライフスタイルを持った、一部の偏った人材しか定着できない企業となってしまいます。
経営者にもないユニークな才能をもった多様な人材を集め、そうした人材が定着し発展し続けるサステナブルな企業であり続けたいのならば、オフラインコミュニケーションに安易に頼るのではなく、オンラインでできることを追及する姿勢や工夫が必要です。
5.3 ハイブリッドワークの成功のための企業文化の醸成
ハイブリッドワークを成功させるためには、人材獲得と定着のためにそれを心から必要だと確信し、支援する企業文化の形成が不可欠です。このためには、経営層の深い理解が必要で、彼らが自分とは違うタイプの人材を活用することの必要性と、そのための新しい働き方の重要性を認識し、その推進に積極的に関与することが求められます。
一方で、社員一人ひとりも、リモートワークでも自律的に生産性を維持できる自己管理能力やコミュニケーションスキルを高めなければなりません。適切なITツールの導入や社員教育を通じて、それぞれの社員がオンラインでのコミュニケーションに自信を持てるようになることが必要です。
多様な人材を登用し、その才能を最大限に発揮できる環境を提供することが、真のイノベーションを創出するための条件です。ハイブリッドワークはそのための必要不可欠な手段であり、それを理解し活用することで、企業は新しい価値を創造し、競争力を高めることが可能になります。