課題解決のためのカイギ術

#会議潜入 株式会社リセ取締役・COOの古田氏が語る三者三様のエキスパートが揃う組織とは。

弁護士の経歴をもつ創業者が立ち上げ、契約書レビュー支援AIクラウド「LeCHECK(リチェック)」、契約書特化型翻訳ツールの「LeTRANSLATE(リトランスレイト)」などでリーガルテックの先端を走るリセ。法務、セールス、エンジニアなど、その分野のエキスパートが肩を並べる組織において、どのような方法でコミュニケーションをとり、質の高いサービスにつなげているのでしょうか。同社取締役・COOの古田氏と、エンジニアリングマネージャーの阿部氏のお2人に、MeetingBase取締役の橘がインタビューしました。

マネジメント会議や部門会議に加え、部門横断の「未来会議」とは

-まずは社内でどんな会議体があって、お2人がどういった会議に参加しているのか教えていただけますか。

古田:僕が参加しているのは、毎週定例で行っているボードメンバーによる事業部マネジメント会議です。以前はそれ以外に各部門のリーダー以上が参加する定例会議もありましたが、2023年12月からはフィールドセールスごと、インサイドセールスごと、といった各グループのマネージャーだけが集まる会議に変更しました。僕はマネージャーから上がってくるKPIなどの情報を事業部マネジメント会議で確認する、という形にしています。

変更した理由は、会社が移転したタイミングに加え、社員数が増えたことも関係しています。この1年で約2倍に増えており、コミュニケーションの場を設けているだけでは正しく伝わっていないように感じていました。自分を含め参加している人たちの役割や立場が全く異なるので、同じ内容でもそれぞれの理解度に差が生じてしまいます。1つの会議で大人数に伝えても、ナレッジや経営の判断が浸透していくとは限らないなと感じたことが背景にあります。

それを懸念した結果、マネジメントはマネジメントレイヤーで話し合い、現場ではその経営が判断した施策や課題感について、メンバー同士で理解できるように情報の粒度や言葉を変えて伝える場が必要と思ったので、グループごとに分けることにしています。

株式会社リセ 取締役・COO 古田哲也氏

阿部:僕が参加しているのは主にスクラムミーティングです。あとは弁護士チーム、各部門や開発部の全員が出席している「未来会議」と呼ぶ会議ですね。これは「向こう1カ月何に注力するのか」などを部門ごとではなく全員で話し合うものです。

大きなロードマップがマネジメント会議で決まっており、それが各部門に降りてくる形なのですが、実務的なところになると、目先の消化すべきタスクが複数出てきて、どれを優先すべきなのかがはっきりしないことがありました。もちろん途中で差し込まれるタスクもあり、我々開発部とセールス部門、それと弁護士チームとの間で何度もやりとりして調整する必要があったりしてそれであれば、仕様や要件も含めて全員で集まって決定した方が早いのではないか、ということで未来会議が始まりました。

橘:なるほど。実はクラウドサインのロードマップは約50人が参加する会議で決めていたりします。エンジニアやデザイナーも、カスタマーサクセスのメンバーも集まって、話し合って決めています。全員の目の前で決定する方が早いですし、内容をオープン化することにより、議論も正しい方向に進むものと考えてます。

阿部:僕らの場合も意図としては、まさにそれに近いですね。各部門に情報が降りてきた際に、その意思決定の背景やWHYの部分が正しく捉えきれず、部門ごとに理解が異なっていることがあるんです。なので、一度みんなで情報をテーブルの上に並べて話し合う方がいいだろうという考えです。

システム開発部 プロダクト開発グループ
エンジニアリングマネージャー / スクラムマスター 阿部亮太氏

橘:会議をオープン化する、というのはMeetingBaseの哲学でもあります。たとえばクローズドなチャットとオープンなチャット、それとダイレクトメッセージとでは、同じことを話し合っても違う結論に辿り着いたりします。「みんなに見られている」と思うと、より正しい発言をしようと思うものですし、ダイレクトメッセージだと少し雑な議論になりがちなんです。

古田:それは一理ありますね。大きなロードマップを実現するまでの細かい実務について、経営がすべて把握できてるかというとそうではありません。見ている情報が違うから仕方ないと思いつつも、最初から把握していたら、経営側もスピーディに、より妥当な決断ができると思います。ですので、僕らの場合は現場のメンバーに実務を踏まえた粒度の情報を持ってきてもらい、CTOと私も参加する未来会議という名前の会議を行い調整して、実現手段に落とし込む形にしています。

ユーザー目線で考えられるからこその意思決定の早さ

-会社としての意思決定はどういった形でなされていますか。

古田:僕らのプロダクトは法務関連のサービスですので、アイデアの源泉みたいなところは代表で弁護士でもある藤田をはじめとする企業法務に詳しい弁護士が所属するリーガルコンテンツチームで検討しています。特に藤田は、自身がユーザーでもあり経営者でもあるということで、両方の立場から法務の課題を理解していますから、自分の直感をすごく大事していると思います。そこである程度形が見えてきたら執行部門の役員がいる場で解像度を高めて決めていくような流れですね。

リセのオフィス

-顧客と経営者が一致しているのはリーガルテックの特徴でもありますよね。他に意思決定において御社ならではの強みはありそうですか。

阿部:現場からの視点だと、思いきりがいいように感じます。例を挙げると、エンタープライズ向けのある機能を開発する際に候補がいくつかあり、当初はA案で行こうと1カ月くらい技術調査なども進めていました。その時点でエンジニアの人件費がかかっていたんですが、並行して他で行っていた調査でB案やC案の方が有効と結果が出た瞬間に、「じゃあそっちにしよう」と一気に方針転換したことです。会社がより良い方向にいくのであれば、ズバッと決めていくところはかなり特徴的かと思いますね。

古田:当社にはリーガルコンテンツチームもいますし、企業法務を長く手がけてきた役員もいて、ある意味プロダクトのユーザーが社内にいる状態ですから、アイデアについてはかなり精度の高い球をすぐに投げられます。でも、その感覚をもっていても何を優先すべきか判断しにくい際には、外部の調査を入れてロジカルに決定するようにしています。その時は調査によって納得できる結果が出たので、素直にそれに基づいて決めました。

-反対に課題感をもっている部分はありますか。

古田:おかげさまでユーザーが増え、スタートアップとしてシリーズBラウンドを迎え、2倍、3倍の規模を目指すタイミングになりました。ここまでスピーディーに打率の高いプロダクトを作ってこられたのは、先ほどもお話ししたように経営者でありつつユーザー目線ももっているからだと感じます。ただ、この先も一方的な旗振りだけでいけるかというと、そうとは限りません。ボトムアップ的な動きや、ユーザーの声を活かしていくことも求められると思っています。

営業やカスタマーサクセスを通じてユーザーの声を拾い上げる会議は毎週実施しているのですが、今後はユーザー会を開くなどして、ニーズを把握するような双方向のコミュニケーションも必要になると思っているのですが、まだ手を付けられていないのは僕らの弱みですね。

阿部:エンジニアとしては、サービス利用に関わるログがあまり取れていない点が課題です。経営側にユーザーの声は届いていても、その裏付けみたいなものがデータではないんですよね。移動するための乗り物が欲しいと言われた際に、それが自動車なのか自転車なのかを見分けるところは、藤田のセンスに頼っている部分があるんです。

ただこれまでは機能をリリースする際に、それが成功か失敗かを判断する一定の指標がないまま進めることが多かったのですが、最近はその指標をしっかり定義するようにして、リーガルコンテンツチームとも意識合わせしてから投入するようになりました。後で振り返って次に活かすことができる体制になりつつあります。

-経営側の時間の使い方、という点についてはいかがでしょうか。

古田:藤田はミーティングを必要最小限にし、その分実務に充てる時間を多くしているようです。僕も最近は出席するミーティングを絞り、戦略などを考える時間を増やすようにしています。他の作業に追われて、事業の大事な部分を解像度高く見られていないところがあったからです。僕自身、まだ経営者としては未熟だと感じているので、実際に手を動かしながらベストプラクティスを学んでいっている途中です。

橘:それに対してエンジニアの立場から何か感じているところはありますか。

阿部:プロダクトも兼任しているCTOが、COOの古田と同じくらい忙しいので、現場としては一番コミュニケーションをとりたい2人と話す機会が少なくなっているのはなんとかしたいな、と思っています。会議時間を短くしたり、出席しなくてもいい会議は出ないようにしたり、という方法もあるとは思うのですが、その意味ではMeetingBaseのような新たな会議ツールに期待しているところでもあります。

議事録はもちろん、スタートアップは「人を知る」仕組みも大切

-話を変えて、議事録について質問です。社内の議事録はどれぐらいオープンになっていますか。また記事録はどういったツールで管理されていますか。

阿部:マネジメント会議の議事録はボードメンバーのみが共有できる形にしていて、プロダクトのロードマップを決める部分に関しては私のような中間管理職にも一部公開されています。部署ごとの定例会議は全員にオープンになっていますね。

古田:議事録作成についてはエンジニアはNotionを、全社共通のツールとしてはConfluenceを使用しています。Confluenceではミーティングごとにツリーにして、各チームリーダーが週次の議事録ページを作るようにしています。全事業部のKPIも見えるようにしているので、これをもとに意思決定しています。

このようにする背景としましては自分自身、議事録をまとめるドキュメンテーション能力は重要だと考えています。ここに書けないことは実装できないことだと思いますし、なんとなく「頑張ります」みたいな曖昧なことも書けない。入社したばかりの人が過去の経緯がわかるようにという意味でも、ドキュメンテーション文化は大事にしていますね。

-会社としては「人を知る」ことも大切だと思うのですが、社員のことを知るための仕組みは何か用意されていますか。

古田:仕組みというほどのものではないのですが、社員1人1人のプロフィールを1ページずつまとめた「プロフィールシート」を作って共有しています。入社初日に自分で書くもので、文量や書き方にその人なりのキャラクターが伺い知れて、社内では好評です。スタートアップというのは結局「人」ありきですし、人材をどう生かしていくかというのは深いなと思います。

阿部:ちなみにエンジニアの場合はその人の経験やスキルによってオンボーディングの仕方も工夫していく必要があるので、それを把握できる仕組みが最近必要だと感じています。プロフィールシートは個人のパーソナリティを記したものなので、経験やスキルなどの能力的な部分までは把握しきれません。これくらいなら知っているだろうと初歩を省略してオンボーディングしたら全然知識が足りていない場合もありますし、反対に丁寧に説明したら思ったよりずっとスキルがあって失礼になってしまうこともあるので、もっと具体的な経験やスキルの履歴も欲しいなと考えています。

弁護士ドットコムでミーティング開始時に使用しているオリジナルの「アイスブレイクカード」。裏面に書いてあるテーマで話題を作り、場を温めるようにしている。これも「人を知る」1つの手段と言えそう。

-最後になりますが、将来的にどんな組織にしていきたいか教えてください。

古田:プロフィールシートもそうですが、僕らは皆がリスペクトし合う関係性を重視しています。いわゆるBizDev(事業開発)の人もいればエンジニアもいて、リーガル関連の人もいる。三者三様と言うか、それぞれで文化が違えばスキルも異なるので、互いにリスペクトしていくための仕組み、交流しやすくする仕組みは、僕らのような会社にこそ必要だと感じています。考え方の違いから不満が広がっていくと、この会社にいる価値を感じにくくなったりもするので、そうならないための仕組みづくり、雰囲気づくりを目指していきたいですね。

阿部:経営の意思決定の背景を社内の全員が理解したうえで、新機能について社内からフィードバックをもらったり、お客様からの要望を精査したり、開発が作ったものをレビューしたり、といった動きができるようになるといいですよね。前提条件が揃った同じ目線で互いに話せるようになれば、組織としても強くなれるのではないでしょうか。会議のあり方、情報共有の仕組み、業務プロセスを工夫するなどして、組織を今よりもっと成長させていければと思います。

こちらも合わせて読む