課題解決のためのカイギ術

#会議潜入 テックタッチ代表取締役 CEO井無田氏が語る経営視点からの会議デザイン。理想の組織像からテックタッチの強さに迫る。

今回はテックタッチ株式会社 代表取締役 CEOの井無田 仲様と、CX事業部長の滝沢 優様にテックタッチ流会議術をMeetingBase事業責任者の橘がインタビューし、テックタッチの経営方針、強さの秘訣、今後の組織体制に迫りました。

執行役員会を廃止した経緯とは

‐本日は会議術のようなTipsにとどまらず、会議を切り口にして理想的な組織論、そして経営者が臨む在りたい会社像や今後の経営方針なども伺い、テックタッチの真実に迫っていきたいと考えております。

井無田:よろしくお願いいたします。

‐早速ですが、井無田さんは現在どれぐらいの会議に参加しているんですか?

井無田:まず私は今組織上の役割を3つ持っています。CEOという立場に加えて、HR部門のマネージャー、そしてCX(カスタマーエクスペリエンス)部署の管掌役員を兼任しています。

特にその中でもHR部門ではプレイヤーとしても動いているので、会議に積極的に参加していますが、それでも週あたりの定例会議の数は1桁です。定例会議と分類しているものも基本は幹部社員との1on1が中心で、大人数の会議に参加することは基本的にありません。

‐一番重要な会議はやはり経営会議ですか?

井無田:そうですね。経営会議も変遷があり、一番当初はいわゆるBiz-Prod横断での経営事項を話し合うような「執行役員会」と呼ばれる会議を実施していました。

数ヶ月この形で走ってみたのですが、執行役員会のアジェンダの解像度が大きすぎる、また、参加メンバーも多いし専門性が違いすぎて、重要なことを話し合う会議体としては機能しないと感じ、すぐに廃止しました。現在では僕が管掌するBiz側の意思決定をするVP Meetingを最重要会議として位置付けつつ、共同創業者CTOと私で行う1on1によるBiz-ProdのリエゾンMTGで相互の状況を確認するようにしています。

VP Meetingとは、ビジネス側のVPであるセールス、CS、プロダクトの責任者と私の4人で週次60分実施するミーティングです。それをいわゆる経営会議として実施しています。上記とは別に、私とCTOでのミーティングを週次30分行っています。

‐経営会議にも経営者の個性が出るので聞いてみたいです。よくあるのは、経営者の権限に基づいた承認プロセスとしての会議体と、次の戦略をどうするかを話す戦略議論の会議体です。貴社の会議はどちらの形式で行われるのでしょうか。

井無田:後者の戦略議論の場だと位置付けています。特にこだわっているポイントは、経営会議に限らず、経営数値に基づいた議論を行うことです。

ダッシュボードにおいて経営数値を全部可視化し、会社の経営状態を、全員が同じダッシュボードを見ながら把握し、そこから問題点を抽出するようにしています。

その基盤があった上でどう解決していくかを経営会議で議論します。課題を解決するための投資対象やリソースアロケーションを担当領域ごとに議題を設定し、意思決定していきます。そしてその投資に基づいた結果を、定期的にダッシュボードをもとにトラッキングしていくのです。

素晴らしいですね。自分は顧客の声の定性情報からプロダクトアウト的に思考を深化させていくタイプですので、定量情報からの経営は興味深いです。経営会議の適切なメンバーには何かこだわりがありますか。

井無田:基本的には最大でも4人前後が適切に議論・対話ができる最適なメンバー構成だと考えいます。

-上記のような経営会議以外は1on1が中心とのことで、参加している会議は少ないように感じます。例えばセールス会議のような定例会議に参加されない理由はどのような理由からでしょうか。

井無田:セールスの動向は先程お話したダッシュボードで 把握すべきと考えているため、セールス会議に私が参加する意義をあまり見出せていません。

例えばマネジメントとして予算達成を必達する空気感を醸成するとかであれば意義はあるかもしれませんが、CEOの立場からそこまで自分自身がやるべきではないとの思考から参加しない方を選択しています。

特にCEOは全員から”嫌われない”ことも仕事の1つだと考えているからです。参加している現場の会議であれば、デマンドジェネレーションの会議体は唯一参加しているかもしれません。マーケティングやBDR、パートナーからのリードジェネレーションのような領域です。

まだデマンドジェネレーション全体が黎明期にある段階で、特にエンタープライズ領域でのリード獲得をいかに安定的に確保するかが決定づけられておらず、ハウやリソースの議論になることも多いからです。

「CEOの嫌われない論」

-ありがとうございます。先程のセールス会議に参加しない理由を掘り下げてみたいです。自分自身はメンバーから嫌われないことは多分に無視し、成果が出るなら空気感をぶち壊してでも先導切るタイプなのですが、「CEOの嫌われない論」をもっと聞いてみたいです。

井無田:興味深い指摘ですね。恐らく橘さんは「表面的には嫌われても、本質的には嫌われない自信」があるのだと思います。本当に橘さんのことを嫌いになったら、会社を続けていられないと思うので。そこの自信がある前提で「嫌われることを厭わない」という話だと理解しています。

自分自身の「CEOが嫌われない」論の本質は、政治的な組織にしたくないというのが大きいです。例えば、私が細かい評価も含めて全てを判断しているようにメンバーが感じてしまうと、メンバーは素の反応が出せなくなってしまうと考えています。

組織の健全性を保ち続けるためにも、あえてトップだからこそ政治性から排除した関係を作り、私の顔色を伺うことなく、良い働き方をできる環境をつくりたい。私自身は、大局を見る存在であることが理想だと考えています。

会議にも自分の意見が強くなりすぎると議論が歪んでしまうことへの懸念からなるべく参加しないようにしています。

-自分は会議に参加しない代わりに「報告してほしい」のか、「権限移譲して決議事項も任せている」のかはいかがでしょうか。

井無田:基本的には相当権限移譲し、バンッと思い切り任せる経営スタイルをとっています。先程お話しした通り、経営ダッシュボードで全部数値管理していることが理想なので、今後経営企画やオペレーションに特化した人材も採用しながら経営し、任せられるロールの人材に権限移譲していきたいと考えています。

-かなり権限委譲されているんですね。(CX部長の)滝沢さんからみても同様の意見ですか?(少し疑いながら滝沢さんに話を振ってみた)

滝沢:本当です。相当に権限移譲されているように見えます。これは入社した時も思いましたが、井無田は事業そのものへのこだわりよりも、組織へのこだわりの方が強いように感じています。そのため極論ですが、事業は誰か任せる人がいればもう完全に任せちゃうタイプなのだと感じます。他の会社のCEOと比べても顕著にそう感じますね。

先程の話であった「CEO嫌われない論」でも組織へのこだわりを感じます。どのような組織やチームでも何かしらの不満は生じるものですが、その不満の種がCEOである井無田にきちんと集まるようにしておきたい気持ちがあるのだと思います。

誰かが味方になってくれる、CEOが皆の味方になってくれる存在であり続けるというのは、が私からみても良いと感じています。

-なるほど、参考になりました。そのような理想のCEO像の姿や理想像はどこから学習していますか?何か参考にしている会社や、この人から学習しているとかがもしあれば。

井無田:私たちはエンタープライズ企業向けのSaaSですので、先人達が基本的にはあまりいません。もちろんSansan様のような尊敬すべき企業はいますが、あまり事例がなく、その意味で言うと外資系SaaS企業の手法や組織論をベンチマークにすることが多いです。特に外資系企業の日本リージョンでの立ち上げ時期などの話は参考にしています。

-エンタープライズの企業を顧客にする企業の佇まいは何が異なるのでしょうか。クラウドサインでもPLG型からエンタープライズSLGに移行していますが、結局本質は何なのかと自問します。

井無田:まず大きな特徴としてエンタープライズSaaSの主要チャネルはアウトバウンド主体です。またマーケティングもフィールドマーケに寄ることになり、ラウンドテーブルやCIO向けのイベントなど戦略、戦術からはじまり、施策も異なります。

それゆえに大量のコールを捌くような新卒主義の会社よりは、エンタープライズのお客様への解像度が高い経験者採用も重視することになります。

-顧客に向き合うと採用要件も戦略も変わってくるという話ですね。それに加えた「テックタッチらしい人」とはどのような人材なのですか?テックタッチの採用戦略の独自性を知りたいです。これは滝沢さんにまずお伺いしたいです。

滝沢:井無田は信頼できる人であれば基本全部任せたい方針です。だからこそ任せられるような人材を採用すべく、相当なこだわりを持って採用しています。CEO自ら採用マネージャーを兼任しているのも理由だと感じます。結果的に外資出身者も含め幅広く採用しつつも、本当に強い人が集まってるのが当社の強みかと思います。

井無田:そうです。任せられるのであれば、任せていきたい。自分自身その方が好きだし、大変だけど結果として組織も個人も成長すると感じます。自分自身が若者だった時も、上司に全て任せて欲しいと強く感じていました。

滝沢:後は、ジョブディスクリプションがしっかりしているのも特徴的かもしれません。採用したいポジションと求める条件明確で、必然的に経験を求める傾向にあります。若手ももちろんいますが、相対的には経験者が多いと思います。

井無田:あとは重要なテーマとして掲げているのは、「メンバーがいかに会社に対してオーナーシップを持てるか」を意識しています。私たちの特徴なのですが、ストックオプションプールなどの持分も比較的多く確保しており、会社にオーナーシップを持てる制度をきちんと確保しています。    

他にも社員数が20人くらいだった頃は、会社の組織の在り方や設計をチーム横断で「会社に対する課題解決会議」のようなワーキングチームを立ち上げる仕掛けを作ったり、最近だと全メンバーがコミニュケーションできるようなイベント企画を新メンバーが担ったり、「Win Session」という形で全社で注目すべき取り組みを貢献者が発表したりと、いかにオーナーシップを楽しんで発揮できるかについては、常に意識しています。      

テックタッチの今後:アメーバ経営

-そんなテックタッチ式の会議術やツールなどは何か特徴的なものはありますか?

井無田:今回のテーマにも通じる会議の特徴の1つは「ニコニコ動画式会議」です。社内では、社内の開発者の名前にちなみ「ロキスク」と読んでいます。ウェブ会議中に社員がコメントを打つとニコニコ動画のようにコメントが流れ、参加意識が高まるツールを社内で実装しました。皆が盛り上がるテックタッチらしい仕組みです。

発表に対して皆のリアクションが画面に出てくるので人で喋っていながら、皆からの質問や意見が出やすくなります。

あとは会議の時間配分を意識して、この議題はあと何分で議論を終えてくださいといったツールも自社内製で実装しているのも特徴的です。他にもウェブ会議を録画しているのを忘れていると「録画しませんか?」と我々の提供サービスである「テックタッチ」を実装したりもしています。

「ニコニコ動画式会議」の「ロキスク」

-最後に井無田さんに質問です。テックタッチの組織はこれからどう変化していきますか?オーナーシップの想いも、人が増えれば薄れていくもの。それに抗い続けるのでしょうか?

井無田:抗い続けます。テックタッチが最初にエンタープライズ向けに事業を始めたのもそこが理由かもしれません。SMB市場はどうしても大人数の人が必要になり、オペレーションで戦うことになります。一方で、エンタープライズ市場は基本的に個別性で勝負します。

そうなるとセールスもCSもマーケも実施施策は全部異なり、個別性の戦いになるのです。もしかしたら経営的にはかなり効率悪いのかもしれませんが、それでも一個一個課題を見つめ続けた上で最適化しなきゃいけない。事業を進めるうえで、オーナーシップが不可欠なのです。

だからこれからも、「アメーバ経営」のようなものを実装していくことになると考えています。権限移譲しながらもKPIとKGIなどの経営管理基盤を作り、自律的なマネジメントモデルを実装していきたいと考えています。テックタッチのこれからに更に期待していてほしいです。

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